写真の見え方を変えるためにはレンズの焦点距離を調整することが一般的ですが、実際には撮影者と被写体の間の距離を変更することで、写真の印象を大きく変えることが可能です。
広角レンズと望遠レンズでは、撮影する景色の捉え方に基本的な違いはありませんが、どの範囲をどれだけ切り取るかという点で差が出ます。広角レンズは広い範囲を捉えるのに対し、望遠レンズは限定された範囲を詳細に描写します。
例えば、28mmのレンズで撮影した写真を、135mmのレンズで撮影したものと同じサイズにトリミングすると、画質の劣化やレンズの性能を除いて、似たような描写が得られます。
このシンプルな事実が、レンズの選択や使用方法を理解するのに役立ちます。
焦点距離が異なるレンズを使って同じ大きさの被写体をフレーム内に収めるには、撮影位置の調整が必要です。たとえば、135mmの範囲を28mmのレンズで捉えるためには、カメラを後ろに移動させる必要がありますし、逆に28mmで135mmの範囲を捉えるには前に進む必要があります。
撮影位置の変更が写真の描写に違いをもたらします。一般にはレンズを変えることで描写が変わると思われがちですが、撮影距離の調整も重要な役割を果たしています。
広角レンズだけで充分かという問いに対して、理論的には広角レンズ一本で、トリミングを使ってさまざまな焦点距離の写真のように見せることは可能です。しかし、トリミングには画質が低下するというデメリットがあり、実際の使用には不向きです。さらに、ボケ具合などの違いもあり、理論だけでは不十分です。
「広角らしさ」と「望遠らしさ」の違いは、遠近感の表現に大きな影響を与えます。例えば、カメラから近い位置と遠い位置の距離が大きく異なる場合、遠近感が強調されるのが特に広角レンズの特徴です。
写真撮影で被写体とカメラの距離を10メートルとすると、鼻先からカメラまでの距離が10メートル5センチ、尻尾からカメラまでは10メートル50センチとなり、このわずかな差は通常感じられません。この現象により、写真の遠近感が薄れることがあります。
通常、近くで撮影された写真は広角レンズのように感じられ、遠くで撮影された写真は望遠レンズのように見えることがありますが、これはレンズの種類によるものではなく、撮影距離の違いが原因です。
望遠レンズを使う場合、広角レンズで撮影するように被写体に近づくと、画角が狭くなりフレームに収まらなくなるため、自然と距離を取る必要があります。望遠レンズは引いて撮ることを前提に設計されており、最短焦点距離も比較的遠く設定されています。そのため、近づきすぎるとピントが合わないことがあります。
広角レンズを使用して遠くの景色を撮影する際、被写体が小さく点のように見えるため、近寄ることで距離感が強調され、典型的な広角の効果が得られます。
広角レンズと望遠レンズを同じ距離から使用した場合、撮影範囲は異なりますが、表現の大きな違いはありません。
最終的に画像の表現に最も影響を与えるのはレンズの種類ではなく、撮影距離です。広角レンズによるパース効果と望遠レンズによる圧縮効果は、撮影距離に基づくもので、これらの効果は肉眼で物を見る際とは異なる視覚効果を生み出します。実際に、肉眼でもパースと圧縮効果を体験することができます。
例として、二本の鉛筆を30cm離して縦に立ててみましょう。その後、一方の目を閉じ、視点を一方の鉛筆の近く、約10cm先に設定し、両方の鉛筆を見ます。この時、近い鉛筆から遠い鉛筆への視線移動によりパースの効果が顕著に現れます。一方で、視点を1m先に設定すると、鉛筆間の圧縮効果が確認できます。
これらの視覚効果は、特定のレンズを使用することで得られるものですが、実際には肉眼でも同様の効果を感じることができます。ただし、日常生活でこれを意識することは少ないでしょう。
また、人の視覚とカメラのレンズとの違いには、両目と片目の違いもあります。広角レンズを使用すると、画像の端が引っ張られるように歪むことがあります。これは3次元空間を2次元の平面に変換する過程で生じる避けられない現象であり、現実とは異なる印象を与える原因となります。
広角レンズ特有のこの歪みも、一般的にはパースと表現されることがあります。さらに、圧縮効果は遠くの場所、通常はほとんど注意を払わない狭い範囲で起こります。望遠レンズでこれらを拡大して見ると、新たな驚きを感じることがあります。
被写体の「近さ・遠さ」とスケール感にも注目しましょう。例えば、広い町並みを撮影する際、一般的には遠いと感じる距離でも、実際には「近い」と表現できることがあります。これは、被写体のスケール感によるものです。小さなものでは数センチから数メートルのスケールで足りますが、町並みのような大きなものでは、数十メートルから数百メートルのスケールが必要です。例えば14mmレンズで10mの距離から撮影する場合、135mmレンズを使用すると、約100m後ろに下がる必要があることからも、この「近さ」が理解できるでしょう。
パースについて
撮影対象に近づくと、その前後の距離感がよりはっきりとします。たとえば、鼻先から尾までが50cm離れているとした場合、この距離感は10倍に感じられることもあります。これを「パース」と呼び、前方の距離が拡大して後方が遠く感じられる現象を指します。
圧縮効果について
一方、被写体から離れると、前後の距離感が縮まり、遠近感が弱まります。例えば、厚さ50cmの被写体が10m先にある場合、レンズから被写体までの前後の距離の比率がほぼ同じになり、遠近感の違いはほとんど感じられません。これを「圧縮効果」と言います。
パースと圧縮効果の実際の影響
これらの効果は、カメラと被写体の相対的な位置に依存しており、焦点距離とは直接的な関係はありません。
レンズの種類による影響
広角レンズを使った場合、被写体が遠方にあれば圧縮効果を見ることができますが、その効果は目立ちにくいです。反対に、望遠レンズを使って被写体に近づくと、パースが生じやすくなりますが、ピントが合わせにくくなることがあります。望遠レンズは画角が狭く、被写体の前後の距離感を比較しにくい特性があります。
まとめ
この記事では、写真撮影における「パース」と「圧縮効果」に焦点を当て、その効果を解説しました。広角レンズと望遠レンズはそれぞれがパースと圧縮効果の観察に適していますが、その効果は撮影状況によって異なります。また、これらの現象はレンズ自体ではなく、撮影者と被写体との相対的な距離によって生じます。パースは撮影者が被写体に近づいた時に強い遠近感を感じさせる一方、圧縮効果は距離が離れると遠近感が薄れる現象です。